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コラム

実施料判定プロジェクトチーム研究報告書「特許権等の実施料相当額算定手法」について

日本知的財産仲裁センター実施料判定プロジェクトチーム(実施料PT)は,「特許権等の実施料相当額算定手法について」と題する研究報告書を2018年7月2日付で発表しました。

実施料PTは,知財ADR機関である日本知的財産仲裁センターが,企業間のライセンスにおける実施料条件について,当事者の申立てに基づき独立・中立の立場から行う新たな判定業務のための基礎研究を目的に発足したもので,そのためまず裁判例の検討を通じて共通性のあるツールとして判定業務に使用できる算定手法が得られないかという問題意識をもって議論を重ねてきました。その成果が本報告書です。

現在、報告書は当センターのウェブページに掲載しています。

 ダウンロードは,こちらから

報告書は,冊子での配布は行っていませんが、ダウンロード,複製,頒布自由となっており,多くの方にご覧頂けるようになっています。

本コラムでは,同研究報告書をご紹介したいと思います。

報告書の構成

報告書は,「Ⅰ 考察と提言」,「Ⅱ チェックシートと解説」,「Ⅲ 資料編」の3部で構成されています。

Ⅰ 考察と提言

特許権・実用新案権侵害訴訟での,損害賠償,補償金または不当利得返還における「実施料相当額」の算定手法について,従来の裁判例に対する疑問点の指摘と米国の裁判例や学説の検討も踏まえた新たな算定方法の提言を行っています。

Ⅱ チェックシートと解説

実施料算定において考慮されるべき要素をチェックシートにまとめて解説を付しています。

Ⅲ 資料編

平成30年3月29日までの実施料相当額認容例79件の当事者の主張と裁判所の判断の要点を紹介しています。

考察内容のポイント

「相場」基準に代わる算定方法

「Ⅰ 考察と提言」では,従来の裁判例での主流であるともいえる該当業種または技術分野において平均的とされる料率(相場)を基に,いくつかの考慮要素を示して,「本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,本件発明の実施料率は○%と認めるのが相当である」などとする平均的料率プラスマイナスアルファ的な認定方法を批判し,これに替えて,実施料とは第三者の特許発明実施により得られる利益の特許権者への分配であるとの基本的理解に基づき,

  1. 侵害者が侵害品事業により得た限界利益の額の算定
  2. 当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分の抽出
  3. 侵害者限界利益における被侵害特許発明の特徴的部分の顧客吸引力による寄与率の算定

の3段階で行なうことを提言しています。

表計算ソフトを利用可能な算定手法の提言

また,侵害者限界利益の算定については,「限界利益=限界収入-限界費用」との経済学的定義を基本として,侵害製品の売上額と変動費・固定費を含む総原価から表計算ソフトを使用した最小二乗法による限界利益を即座に算定するという迅速,明快な手法を提言しています。

表計算の例

本報告書の活用場面

この手法によれば,訴訟においては,当事者の立証主題が明確化され,実施料相当額は少数の基礎データから直ちに算定できるため,訴訟経済に益することは勿論,何よりも算定結果についての当事者の納得も得られやすく,訴訟の結果予見性も格段に高まることが期待できます。

また,この手法は,過去に係わる係争案件に限らず,実施料交渉においても将来の売上や総費用をデータとして使用する点で異なるとはいえ,考え方として有効性を有するものと考えています。

報告書中で使用しているチェックシート(報告書41頁)は,こちらからダウンロードできます。

ご意見をお寄せください

実施料PTとしては,多くの知財関係者からの意見を求め,今後の実務での活用を期待しております。本報告書について、ご意見がある場合には、お問い合わせを通じてご連絡いただければ幸いです。

実施料判定プロジェクトチーム座長 山﨑順一

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